LIME研究会

﨑元です。小生は感染の専門ではありませんが、いわゆるアクネ菌(Propionibacterium acnes, P. acnes)と炎症の不思議な関係について今回は述べてみたいと思います。

 

瞼のふちには、ブドウ球菌と並んでアクネ菌が存在していることが知られています。アクネ菌はニキビの原因としても有名で、嫌気性でかつ脂を好むため(鈴木先生、合ってますよね?)皮膚の脂腺だけでなくマイボーム腺の中にも存在しやすいとされています。

 

ところで日本では、三大ぶどう膜炎の一つであるサルコイドーシスの原因として、アクネ菌が半世紀近く前から強く疑われてきました。サルコイドーシスは全身に肉芽腫を形成する炎症性疾患で、目でも肉芽腫性ぶどう膜炎として分類されています。そのサルコイドーシス患者の生検組織からアクネ菌が高頻度に分離培養され、サルコイドーシスに肉芽腫形成に関与している可能性を疑われてきたのです。近年になり、アクネ菌を特異的に染色できるPAB抗体の登場により、サルコイドーシスの眼組織においても例えば硝子体中や続発性網膜上膜にもアクネ菌が検出されるようになり、全身の広範にアクネ菌が存在することが知られるようになってきました。

 

肉芽腫は、炎症によりマクロファージやリンパ球、さらに線維組織が集簇して形成される病変です。では、アクネ菌がどのように炎症を引き起こすのでしょうか。最近の報告に基づき、一つの仮説を述べてみたいと思います。

 

アクネ菌は、貪食細胞において細胞外(Toll様受容体)でなく細胞内の受容体で認識されます。アクネ菌のようなグラム陽性桿菌の細胞壁はペプチドグリカンと呼ばれる厚い蛋白質の塊からなっています。そして細胞内に存在するNodファミリーと呼ばれる細胞質受容体がこのペプチドグリカンを認識します。

 

一方、若年性あるいは遺伝性サルコイドーシスと呼ばれる疾患はこのNodの遺伝子変異で発症することがわかってきました。さらに、このNodは近年トピックとなっている自己炎症性疾患の際に発現するインフラマソームの構成成分の一つに挙げられてもいます。

 

自己炎症性疾患とは、本来は病原性微生物の排除を担う自然免疫機構を制御する細胞(マクロファージなど)が、病原体や抗原、代謝物などの炎症誘導因子によって過剰に活性化され炎症を惹起する状態です。炎症誘導因子を取り込んだ貪食細胞中で何らかの原因で活性酸素が産生され、細胞内受容体であるNLRP3が活性化されてインフラマソームと呼ばれる複合体を形成し、このインフラマソームが過剰なIL-1・IL-18活性化を来し、炎症を惹起します。この機序のコアとなるNLRP3にもNodドメインが含まれているのです。従って、サルコイドーシスにも自己炎症性疾患の可能性があり研究が進められているのです。

 

翻って、前眼部ではマイボーム腺機能不全だけでなく、フリクテン性角膜炎などの炎症性疾患にアクネ菌が関与するとされています。上述した機序が前眼部の炎症性疾患にどれだけ関与しているのか、興味があるところです。