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マイボグラフィーとは?
マイボグラフィーとは、マイボーム腺を皮膚側から透過することによりマイボーム腺の構造を生体内で形態学的に観察する方法である。30年以上前Tapie R1によって初めての報告があって以来さまざまな改良がなされてきたが、侵襲性が高く、一般外来で普及することはなかった。
2008年にAritaらによって開発された非侵襲的にマイボーム腺を観察できる非侵襲的マイボグラフィーは、マイボーム腺機能不全(MGD)の診断をする際、客観的で再現性の高い検査であり、世界中に急速に広まりつつある2,3。
非侵襲的マイボグラフィー
①スリットランプ付属式非侵襲的マイボグラフィー
赤外線透過フィルターにCMOSカメラを付属させたもの。世界で初めて非侵襲的にマイボーム腺を観察できる装置としてAritaらによって開発、トプコン社で発売されている2。
スリットランプ付属式マイボグラフィー (図1-a)(ノンコンタクトマイボグラフィー、DC-4トプコン社)の一番の利点は、一般外来で患者を診察する流れのなかにマイボグラフィーを自然に組み込むことが可能な点である。
細隙灯顕微鏡の散乱光でマイボーム腺開口部や眼瞼縁を観察したのち、フルオレセイン染色後ブルーフィルター(もしくはブルーフリーフィルター)で角結膜上皮障害の観察、涙液破綻時間(BUT)の計測を行う。
その後、さらにフィルターを赤外線透過フィルターにし、患者の上下眼瞼の瞼結膜を翻転しながら、観察用モニターでマイボーム腺を観察、評価する(図1-b)。
まず弱拡大で眼瞼全体を観察し、マイボーム腺が脱落、短縮、途絶、拡張、歪曲など異常所見を見つけたら、その部分を強拡大にして腺房まで詳細に観察する。
②持ち運び式非侵襲的マイボグラフィー
赤外線LED(波長940nm)、CMOSカメラよりなる。
持ち運び式マイボグラフィー(図2-a)4(マイボペン、JFC社)の利点はまさに持ち運び可能なことである。国際的に購入可能なモバイル型非侵襲的マイボグラフィーは、現在のところAritaらによって開発されたマイボペンだけである。
往診、手術室、検診、海外、などポケットに入るサイズで重さも120gと軽量なため、どこでもマイボーム腺を観察することができる。
細隙灯顕微鏡の顎台に顔を乗せられない乳児5や、重症の全身疾患を抱えた入院患者のマイボーム腺も観察可能(図2-b,2-c)。手術室での施行も可能。
③Keratograph 5M (Oculus社)
Keratograph 5M(図3-a)は、トポグラフィ作成という基本機能に加え、マイボーム腺、涙液、充血度を評価できる。
高解像度画像、または動画による記録が可能(図3-b)。
従来のマイボグラフィーと非侵襲的マイボグラフィーの見え方の違い
従来のマイボグラフィーは皮膚側にプローブを接触させ、透過光でマイボーム腺を観察するためマイボーム腺は黒く見える。
非侵襲的マイボグラフィーは結膜側からの反射光によりマイボーム腺を観察するためマイボーム腺は白く見える。
非侵襲的マイボグラフィーは何を見ているか?
非侵襲的マイボグラフィーで白くうつる部分はマイボーム腺分泌脂(meibum)の自発蛍光を反映していると考えられている。
黒くうつる部分はmeibumの充填されていないところなので、① 腺構造が破壊されたdropoutと、② 腺構造は破壊されておらず角化物が堆積しただけの部分やmeibumの成分や量が変化、減少した部分と考えられる(根本ら、日眼、2014)。
Ocular Surface疾患とマイボーム腺の形態変化
コンタクトレンズ装用や、アレルギー性結膜炎、抗緑内障薬長期点眼によってもマイボーム腺の形態が変化することが明らかになった。
最近では、Lid and meibomian gland working group(LIME研究会)の多施設研究により、角膜フリクテンを繰り返す小児のマイボーム腺の形態に変化があることが報告された(森重、鈴木らLIME研究会、日眼、2014)。さらに脂腺癌と霰粒腫の鑑別に有用であったという報告もされている6。
非侵襲的マイボグラフィーを用いたマイボーム腺の定量化
マイボーム腺の消失面積は半定量的にマイボスコア2が用いられてきたが、治療前後での評価にはさらに詳細なマイボーム腺領域の定量化が必要であった。
AritaらはDC-4で撮影したマイボーム腺領域を自動で解析するソフトウエアをトプコン社と共同開発した7。
これを用いれば、点眼によるMGD治療、温罨法によるMGD治療(図4)、内服薬によるMGD治療前後での評価を容易にすることができる7,8。
マイボグラフィーの今後
マイボーム腺機能不全の患者数の多さからその重要性は再認識されているが、残念ながら特効薬といえるような治療法はまだない。病態の解明がまだ完全には進んでいないのが現状だ。しかし、早期に診断し、早期に治療することができれば病状をコントロールすることが可能である。
マイボーム腺の形態観察は客観的で再現性が高い。マイボーム腺領域を定量することによって治療の効果も判定できる。ドライアイ層別診療においても油層診断のキーとなる検査である(図5)。
著しくQOLを低下させるMGD患者の早期診療のために、今後マイボグラフィーはOcular Surface関連疾患診断の要として、“特殊検査“ではなく”Routine examination“になると考えている。
【参考文献】
- 1.
- Tapie R. Biomicroscopial study of Meibomian glands (in French). Ann Ocul (Paris):210:637-48,1977
- 2.
- Arita R, Itoh K, Inoue K, Amano S. Noncontact infrared meibography to document age-related changes of the meibomian glands in a normal population. Ophthalmology 2008; 115:911-915.
- 3.
- Arita R, Itoh K, Maeda S, Maeda K, Furuta A, Fukuoka S, Tomidokoro A, Amano S. Proposed diagnostic criteria for obstructive meibomian gland dysfunction. Ophthalmology. 2009 Nov;116(11):2058-63.
- 4.
- Arita R, Itoh K, Maeda S, Maeda K, Amano S. A Newly Developed Noninvasive and Mobile Pen-Shaped Meibography System. Cornea. 2012 May 10. [Epub ahead of print]
- 5.
- Shirakawa R, Arita R, Amano S. Meibomian gland morphology in Japanese infants, children, and adults observed using a mobile pen-shaped infrared meibography device. Am J Ophthalmol. 2013 Jun;155(6):1099-1103
- 6.
- Nemoto Y, Mizota A, Arita R, Sasajima Y. A case with meibomian carcinoma observed in non-invasive meibography. Folia Japonica de Opthalmologica Clinicam 2014;7(3):95-99 [in Japanese].
- 7.
- Arita R, Suehiro J, Haraguchi T, Shirakawa R, Tokoro H, Amano S. Objective image analysis of the meibomian gland area. Br J Ophthalmol. 2013 Jun 27. [Epub ahead of print]
- 8.
- Arita R, Suehiro J, Haraguchi T, Maeda S, Maeda K, Tokoro H, Amano S. Topical diquafosol for patients with obstructive meibomian gland dysfunction. Br J Ophthalmol. 2013 Jun;97(6):725-9.