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1.霰粒腫とは
霰粒腫は、マイボーム腺の脂質(meibum)に対する非感染性の異物肉芽腫性炎症反応です。これまでは、霰粒腫の治療としてはすぐに手術するのが一般的でしたが、最近では霰粒腫の保存療法、“切らない治療”が見直されています。
今回、マイボーム腺を第一に考えるLIME研究会の立場から、霰粒腫の切らない治療について解説させていただきます。手術で霰粒腫を大きく切ることによる影響、霰粒腫の切らない治療のEvidence、リスクファクター、治療の実際、症例について順にお示しします。ぜひ、明日からの診療で、大切なマイボーム腺を切らないで霰粒腫を治療してください。
2.霰粒腫と麦粒腫の鑑別
典型的には…
- 霰粒腫は、眼瞼の脂腺(マイボーム腺やツァイス腺)の閉塞による非感染性の異物肉芽腫性炎症反応である。瞼板の中に表面平滑の硬結を触れ、通常疼痛は伴わない。
- 麦粒腫は、眼瞼のツァイス腺やモル腺(外麦粒腫)もしくはマイボーム腺(内麦粒腫)の感染による急性化膿性炎症である。眼瞼の発赤、腫脹、疼痛を伴う。
霰粒腫初期や化膿性霰粒腫では疼痛や発赤を伴うことがあり、麦粒腫との鑑別が難しいことが臨床的にはしばしばありうる。そんなときに、マイボグラフィーが霰粒腫と麦粒腫の鑑別の助けとなる。
霰粒腫の症例では、マイボグラフィーで肉芽腫(granuloma)の黒の中に、脂肪顆粒(fatty granules)の白い点がみられる。マイボーム腺構造が破壊されている。(図1)
有田, あたらしい眼科, 2009
麦粒腫の症例では、マイボグラフィーで、マイボーム腺の腺構造の破壊はみられず、膿のたまった部位が白くうつる。(図2)
有田, あたらしい眼科, 2009
3.霰粒腫を大きく切ると
霰粒腫切除術後眼では、マイボーム腺の脱落・短縮が高率にみられた。
霰粒腫切除術長期経過後も、正常眼と比べ、涙液層破壊時間(BUT)が短縮しており、涙液の安定性に影響していた。(図3)
Fukuoka, LIME working group, Clin Ophthalmol, 2017
- ポイント
霰粒腫を大きく切除することは、隣接する正常なマイボーム腺も切除・切開してしまう可能性があり、将来にわたって涙液油層へのダメージを与えてしまうことがありうる。
4.霰粒腫の切らない治療のEvidence
霰粒腫を切らずにマイボーム腺を温存する治療として、温罨法、リッドハイジーン、ステロイド局所注射がある。
霰粒腫に対するステロイド注射と手術を比較した研究では、1回の注射での治癒率は81%、切除術では79%で、有意差はなかった。(図4)
1回の注射での平均治癒期間は5日間だった。
Ben Simon, et al. Am J Ophthalmol, 2011
温罨法、ステロイド注射、切除術を比較した研究では、3週間で、温罨法46%、1回の注射で84%、2回目の注射をあわせると89%、切除術は87%の治癒率であった。ステロイド注射は切除術と同等の治癒率だった。
患者の治療に対する評価は、温罨法は「痛くない」、注射は「痛い」、手術は「一番痛い」という結果だった。(図5)
Goawalla, Lee. Clin Exp Ophthalmol, 2007
- ポイント
-
霰粒腫の温罨法、ステロイド注射、切除術の三療法の中では、ステロイド注射の患者満足度が最も高い。
温罨法のみと、点眼・軟膏併用を比較した研究では、4-6週間の治癒率は、温罨法のみで21%、温罨法とトブラマイシン点眼・軟膏で16%、温罨法とトブラマイシン・デキサメサゾン点眼・軟膏で18%と、有意差はなかった。治療前に比べて霰粒腫のサイズの改善についても有意差がなかった。(図6)
治療開始前の罹病期間と治癒の有無についての検討により、罹病期間2ヶ月未満であれば切らない治療を選択、罹病期間が長い症例では、より積極的な治療を選択することが推奨される。
Wu, et al. Acta Ophthalmol, 2018
- ポイント
治癒率やサイズの改善には有意差がなかったが、温罨法のみよりも、投薬ありのほうが患者満足度は高かった。
登録された症例のうち30%もの症例が脱落していた。この30%の症例は治療を受けてよくなったので受診しなかったのだと考えると、切らない治療の治癒率は上記の数字よりも高い可能性がある。
5.霰粒腫のリスクファクター
霰粒腫のリスクファクターについては、一番は眼瞼炎である。眼瞼炎がある人が霰粒腫を合併していた確率は、眼瞼炎がない人が霰粒腫を罹患していた確率の4.7倍であった。
Nemet, et al. Ophthalmol, 2011
- ●眼瞼炎
- オッズ比 4.7、 95%信頼区間 3.8-5.7
また、眼瞼炎が合併している霰粒腫の治療には、より多数回のステロイド注射を要する。
Ben Simon, et al. Ophthalmol, 2005
- ●眼瞼炎合併例に対するステロイド注射
眼瞼炎あり 眼瞼炎なし 平均 2回 平均 1.4回で治癒
最近では、Demodexと霰粒腫の関係が話題となっている。
霰粒腫の70%でDemodex陽性であり、Demodex陽性だと再発率が高くなる。
Liang, et al. Am J Ophthalmol, 2014
Demodex陽性の再発霰粒腫にtea tree oilでリッドハイジーンを行うと、97%で再発を防止することができた。
Yam, et al. Eur J Ophthalmol, 2014
- ●Demodex
霰粒腫群 69.2% vs. Control群 20.3% (P < 0.001)
オッズ比, 4.39, 95% 信頼区間 2.17-8.87; P < 0.001Demodex陽性だと再発率が高い
陽性 33.3% vs. 陰性 10.3% (P = 0.02)- ●Demodex陽性の再発性霰粒腫にTea tree oil
- 再発防止率 97% (30/31眼) (P = 0.002)
6.霰粒腫の切らない治療の実際
霰粒腫の切らない治療の第一としては、患者自身による毎日の温罨法、リッドハイジーンによるマイボケア(図7)が重要であり、ていねいな指導が必要である。詳しくは、LIME研究会ホームページの動画(MGD治療:リッドハイジーン)をご覧いただきたい。
- ポイント
マイボケアは、霰粒腫の治療だけでなく再発予防にもなる。霰粒腫を繰り返している患者には、霰粒腫が治ったあともマイボケアを継続することを勧める。
霰粒腫に対して点眼や軟膏を処方するときは、抗生剤投与による耐性菌出現、ステロイド投与による眼圧上昇、白内障に注意が必要である。
ステロイド注射のポイントとしては、眼瞼を翻転し、トリアムシノロン(ケナコルト®)
2 mg程度を、27-28 G 針で瞼結膜側から霰粒腫の中に注射する。
注射の合併症としては、皮膚の脱色素、トリアムシノロンの沈着などが報告されているが、皮膚側からではなく、結膜側から注射することで予防できるといわれている。
脂腺癌疑いにはステロイド注射による治療は禁忌である。(図8)
Goawalla. Clin Exp Ophthalmol, 2007.
Cohen. Am J Ophthalmol, 1979.
Park. J Craniofac Surg, 2017.
Ben Simon. Am J Ophthalmol, 2011.
Hoşal. Eur J Ophthalmol, 2003.
Thomas. Ophthalmol, 1986.
Ozdal. Eye, 2004.
7.霰粒腫を切らないで治療した症例
症例1:33歳 女性
左上眼瞼鼻側に霰粒腫をみとめる。発症後1週間で受診した。
初診1週間後、抗生剤点眼とステロイド眼軟膏で改善しないので、ステロイド注射した。このあと治ったので受診せず。
3ヶ月後に左上眼瞼中央に霰粒腫ができて再診。ステロイド注射1週間後に受診したときには治っていた。
マイボグラフィーでは、霰粒腫の部位に一致して、黒の中に白の像がみられた。初回に注射した左上眼瞼鼻側の霰粒腫のあった部位は、3ヶ月後に受診したときには、マイボーム腺の短縮と脱落がみられた。(図9)
症例2:34歳 女性
ものもらいが繰り返しできていて、2ヶ月前から右上眼瞼の霰粒腫が治らないとのことで初診。
点眼・軟膏は処方せず、温罨法とリッドハイジーンを指導した。1ヶ月後、霰粒腫は縮小し目立たなくなっていた。
マイボグラフィーでは、初診時、黒の中に白があった部位に、1ヶ月後にはマイボーム腺の短縮がみられた。(図10)
まとめ
最後に、霰粒腫の切らない治療についてまとめる。
温罨法とリッドハイジーンによる治癒率は30~80%と報告されている。治癒までにかかる期間は短いと2~3週との報告もあるが、数か月かかることもある。一番の利点は痛くない治療であること。眼瞼炎にも効果的であり、Demodexが合併する多発霰粒腫の再発予防にもなる。マイボケアは患者本人が行うので、患者指導が重要である。
温罨法と抗生剤、ステロイドの点眼軟膏の治癒率は20%、もしくは脱落した30%を加えた50%程度で、温罨法のみと同等である。
ステロイド注射の治癒率は60~90%で、切除術と同等と報告されており、平均治癒期間も5日から2.5週と短い。部位を選ばない、多発霰粒腫にも対応できる、1回で効かなければ複数回注射可能である。患者満足度が高いのがポイントである。
温罨法、リッドハイジーンの適応は、大きくないこと、痛いのが苦手な患者、根気強く自分でケアできる患者、再発予防をしたいときである。
ステロイド注射の適応は、早く治したいけど手術はいやだという患者、結膜側の霰粒腫、瞼縁や涙点近傍、多発している霰粒腫である。
これらの霰粒腫の切らない治療の禁忌は脂腺癌であり、少しでも脂腺癌を疑ったら手術治療を選択すべきである。
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(文責・図作成 福岡詩麻、図1, 2作成 有田玲子)