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眼瞼炎とMGDの密なる関係
Lid and Meibomian Gland working group、みなさまにご愛顧いただいているLIME研究会の正式名称です。
今まで、マイボーム腺にフォーカスした活動をしてまいりましたが、今回、Lid、眼瞼にフォーカスした活動の一環として眼瞼炎の啓蒙活動を開始させていただくこととなりました。
早速ですが、眼瞼炎でみなさまはどんな疾患をイメージしますか?
実は眼瞼炎にはさまざまな分類があり、人によって思い浮かべる疾患が違うことが多いのです。眼瞼炎、MGDは症状や所見から共通点が多いため、以前より眼瞼炎の解説をしてほしいとのご要望が相次いでおりました。そこで今回、LIME研究会の立場から眼瞼炎とMGDの密なる関係をわかりやすく解説させていただくことといたしました。眼瞼炎の診断、治療、鑑別すべき疾患、診断のコツについてみなさまの眼瞼炎に対するご理解の一助になれれば幸いです。
1.眼瞼炎の定義
- 眼瞼周囲の充血、浮腫、熱感を伴う炎症
- 症状を伴うことがほとんどだが、診断に症状は必要ではない
American Academy of Ophthalmology, Blepharitis, Preferred Practice Pattern, 2013
- ポイント
患者本人からも第三者からも肉眼的に見える部分のため、患者の精神的苦痛を伴う。
Quality of Visionだけでなく、Quality of Lifeを低下させるという点でアメリカでは注目されている疾患。
2.眼瞼炎の疫学
- 眼瞼炎の疫学調査はまれ。
- アメリカでは眼科受診者の37%、47%という報告がある。
- アメリカでは65歳以上の男性に多いとの報告がある。
American Academy of Ophthalmology, Blepharitis, Preferred Practice Pattern, 2013 - 日本でLIME研究会が行った平戸度島住民検診では後部眼瞼炎の患者は全島民(6歳から96歳まで)の28%だった。男女差はなかったが60歳以上で頻度が急激に上昇する(図1)。
- ちなみにマイボーム腺機能不全(MGD)は平戸度島検診では33%、ドライアイは34%だった。MGDは40歳以降、男性に多く、ドライアイは20歳以降、女性に多かった。
Arita R, LIME working group, Am J Ophthalmol, 2019
- ポイント
国際的に一般眼科受診患者のうち、眼瞼炎患者の割合は非常に高い。
失明しないことが多いため、眼科医から見逃されたり、見過ごされたり、相手にされなかったりするケースが多い。これといった治療薬がなかったことも問題点のひとつ。※近々、日本では眼瞼炎に対してアジマイシン1%点眼液(千寿製薬)が発売される。
3.眼瞼炎の分類
眼瞼炎はその解剖学的位置で眼瞼縁炎と眼瞼皮膚炎に大きく分かれる。さらに病因によって分類される(図2)。
4.眼瞼縁炎の分類
眼瞼縁炎のなかでもさらに解剖学的位置によって前部眼瞼縁炎と後部眼瞼縁炎にわかれる(図3、図4)。
後部眼瞼縁炎はLIME研究会でもおなじみのマイボーム腺機能不全(MGD)と同義語で使われることが多い。
前部と後部をわけているのは睫毛根部であり、睫毛根部より瞼側(皮膚側)を前部、眼球側を後部とよぶ(図5)。
5.前部眼瞼縁炎の診断のコツ
まず、睫毛にフケ状付着物(collarette)があったらこの疾患であることが多い。ブドウ球菌やP.acnesの感染が原因(図6)。
6.後部眼瞼縁炎の診断のコツ
分泌減少型MGD (図7)
マイボーム腺開口部の閉塞所見(Plugging),炎症所見(Vasculariry)の観察
分泌増加型MGD (図8)
眼瞼縁に瞬目するたびに現れるFoamingの観察
→患者はこれを眼脂、もしくは涙と表現することが多い。
- ポイント
瞼にさわらずにMGDの診断をすることはできない。拇指で軽く患者のまぶたを引き上げる。
7.眼瞼炎の治療
8.眼瞼縁炎の治療
- ポイント
アジマイシン点眼液1%はマクロライド系抗菌薬であるが、抗炎症作用によりMGDに効果を発揮するといわれており、現在、アジマイシン点眼液1%のMGDへの有用性を報告する論文は国際的に15本ある。アジスロマイシンの薬剤特性として眼瞼への移行性、貯留性が著しく高い。従来、分泌低下型MGDの治療は温罨法とリッドハイジーンなどのホームケアによることが多く、患者のコンプライアンス次第といった側面があった。Intense Pulsed LightやProbing, LipiFlowなど病院で施術する治療法も出現しているが、未承認、保険収載されていない、など金額的側面でなかなか日本においてはまだ浸透していない。分泌増加型MGDに対しては抗炎症作用を有するステロイド点眼が効果的であることもあるが、長期にわたってステロイド点眼を処方することは副作用的な観点からおすすめできない。
アジマイシン点眼液1%の登場により前部眼瞼縁炎だけでなく、後部眼瞼縁炎(MGD)の治療が大きく変わる可能性がある。
9.鑑別すべき疾患
眼不快感を訴える患者のなかで眼瞼炎と鑑別すべき疾患はドライアイとアレルギー性結膜炎であることが多い。患者の主訴、客観的所見、特徴的所見を下記に示す。
後部眼瞼炎(≒MGD) | (典型的症状) マイボーム腺開口部周囲の充血、血管拡張、マイボーム腺開口部の閉塞. |
|
ドライアイ | (典型的症状) |
|
アレルギー性結膜炎 | (典型的症状)眼のかゆみ、外出後に悪化する (所 見) 瞼結膜の乳頭形成 |
【参考文献】
- 1.
- Lemp MA and Nichols KK. Blepharitis in the United States 2009: A Survey-based Perspective on Prevalence and Treatment. Ocul Surf. 2009 Apr;7(2 Suppl):S1-S14
- 2.
- McDonald MB. The patient’s experience of blepharitis.Ocul Surf. 2009 Apr;7(2 Suppl):S17-8.
- 3.
- American Academy of Ophthalmology. Blepharitis Preferred Practice Pattern Guidelines. Ophthalmology. 2019 Jan;126(1):P56-P93.
- 4.
- Pflugfelder SC, Karpecki PM, Perez VL. Treatment of blepharitis: recent clinical trials. Ocul Surf. 2014 Oct;12(4):273-84.
- 5.
- Eberhardt M, Rammohan G. StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2019 Jan-.2019 Feb 16.
- 6.
- Arita R, Mizoguchi T, Kawashima M, Fukuoka S, Koh S, Shirakawa R, Suzuki T, Morishige N. Meibomian Gland Dysfunction and Dry Eye are Similar, but Different based on a Population-Based Study (Hirado-Takushima Study) in Japan. Am J Ophthalmol. 2019
(文責・図作成 有田玲子)